特別講演
特別講演 1:
限られた情報からロバストに:信頼できる機械学習に向けて
第2日 7月30日(土) 14:20-15:20
杉山 将
(理化学研究所 革新知能統合研究センター センター長,東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)
[抄録]
深層学習を始めとする先端的な機械学習技術は,良質な教師データを大量に必要とします.しかし,医療など多くの応用分野では,質の良い教師付きビッグデータを収集することは容易ではありません.この問題に対処すべく,講演者らのグループでは,ある種の不十分な教師情報からでも学習できる弱教師付き学習手法(正とラベルなしデータからの分類,類似データ対からの分類,正信頼度からの分類,否定ラベルからの分類など),ラベル雑音を含む訓練データからのロバスト学習手法(雑音遷移行列の推定,入力依存雑音への対応,2つのモデルを用いた共教示など),バイアスを持つデータからの転移学習手法(共変量シフト適応,クラス事前確率変化適応,動的適応など)を開発してきました.本講演では,これらの研究の概要と最新の成果をご紹介するとともに,医用画像工学への応用可能性について皆様と議論させていただければと思っています.
[略歴]
2001年に東京工業大学博士課程修了.博士(工学).同大学の助手,助教授を経て,2014年より東京大学教授.2016年より理化学研究所革新知能統合研究センター長を併任.機械学習の理論とアルゴリズムに関する研究に従事.非定常環境下での機械学習の研究に対して2007年IBM Faculty Awardを,密度比推定に基づく機械学習の研究に対して2014年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞をそれぞれ受賞.一連の機械学習研究に対して2016年度日本学術振興会賞および日本学士院学術奨励賞を受賞.Neural Information Processing Systems 2015やInternational Conference on Artificial Intelligence and Statistics 2019などの国際会議のプログラム委員長を歴任.近年は,弱教師付き学習の研究に対して2022年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門を受賞し,その全貌をまとめた英語専門書「Machine Learning from Weak Supervision: An Empirical Risk Minimization Approach」を2022年夏にMIT Pressより出版予定.
特別講演 2:
小惑星探査機「はやぶさ2」帰還粒子の放射光CT観察から導かれる,小惑星リュウグウの形成・進化史
第3日 7月31日(日) 13:20-14:20
上椙 真之
(高輝度光科学研究センター 主幹研究員)
[抄録]
小惑星探査機「はやぶさ2」は2020年に小惑星リュウグウの表面の物質を採取し,地球に帰還することに成功した.放射光実験施設SPring-8のBL20XUでは,2021年にJAXAから配分された1-4mm程度のリュウグウ粒子の20粒子以上を,放射光CTによる非破壊3次元観察を行った.その結果,小惑星リュウグウは,炭素質コンドライト隕石と呼ばれる,母天体上で水による変成を強く受け,有機物に富む隕石のグループと極めてよく一致する特徴を持つことが分かった.また,CTデータの3次元解析からは,流体が流れたためにフラットになった面や,亀裂に沿って形成された水成鉱物など,特に液体の水と関連する特徴を多数観測することが出来ている.発表では,データ解析の結果の一例を紹介し,現在進んでいる「はやぶさ2」帰還試料の分析結果から得られた小惑星リュウグウの形成・進化の描像を紹介する.
[略歴]
太陽系最初期の固体物質進化に興味を持ち,数値計算,放射光CTや加熱実験などを通じて初期太陽系の現象の解明を目指している.2008年から「はやぶさ」帰還試料分析及び,「はやぶさ2」プロジェクトに関わり,2011-2016はJAXAの地球外物質キュレーションセンターで「はやぶさ」帰還試料の分析及びそのための技術開発に携わる.現在は大型放射光施設SPring-8で,BL20XUのビームライン担当者として研究活動を続けている.「はやぶさ2」では,帰還試料の初期分析チーム,およびPhaseキュレーション高知チームとして,試料の分析を進めている.